バラの国の唄がきこえる

発行年月日 : 2022/3/1
B5変形・56頁・糸綴じ製本
ISBN 978-4-9907084-4-3
定価 : 本体3,300円+税

ブルガリア民謡の歌詞の中の「ひとり」は、けっして「孤独」を意味しません。
唄の主人公がたったひとりでいたとしても、太陽や月に、山や森、川に、ときには動物に話しかければ、彼らは応えてくれます。
宇宙は生きていて、いつも会話を交わし、活気に満ちた関係を築いているのです。

画集ができるまで

(ビリャナさんの写真)

ブルガリア民謡の合唱アンサンブル「プローレット」の歌い手である谷川恵さんと井尻真樹子さんに初めて会ったのは、2019年の夏でした。私たちは、ブルガリア中部にあるプロヴディフ市の「ミュージック・ダンス&ファインアーツアカデミー」で開催されたブルガリア民謡のワークショップに参加し、1週間歌のレッスンを受けました。1日7~9時間は歌っていたので、話す機会はほとんどありませんでしたが、1年が過ぎた頃、インターネットで私のブルガリア民謡の絵を見つけた谷川さんから連絡があったのです。画集を出版しないかというお誘いでした。彼女が出版者だとわかったのはこのときです。それ以来、本のコラボレーションを通して、ワークショップでは叶わなかった会話を十分すぎるほど取り戻すことができました。私たちは同じ目的をもつ同志として、あたたかな人間性と仕事の信頼関係を築くことができたと思っています。

(Biliana Stremska)

Biliana Stremska (ビリャナ・ストレムスカ)

ブルガリアの首都ソフィア在住のブルガリア系アメリカ人アーティストです。ソフィア美術高校で学んでいた当時、水彩画に出会い、この技法を生涯愛するようになりました。
ビリャナの作品は、アメリカとブルガリアのギャラリーや施設などに展示されています。現在はフルタイムで絵を描きながら、ソフィアにあるARCアカデミーの夜間クラスでデッサンを教えています。

ブルガリアの歌声に魅せられて

初めてブルガリアの唄を聴いたのは、30年以上前になります。その時の衝撃をまだ覚えています。民族衣装を着て、ぴったりと身体をつけるように腕を組んだ女性たちの歌声は、私の耳を飛び越えて直接心に響き、不思議と涙がでてきたのです。当時の私は唄を歌う人ではなかった。それから長い時を経て、偶然の出会いに導かれるように、私は仲間とブルガリアの唄を歌うようになりました。

私の小さな出版社から、ブルガリアに関する本を出したいと、ずっと考えていました。ブルガリアの事が好きすぎて、構想はどこまでも広がり、本としての輪郭が見えないまま気持ちだけが膨らんでいきました。そんな時にビリャナさんの画と出会いました。そのとたんに、私が作るべき本がはっきり分かりました。この画で画集を作ろう。迷うことはありませんでした。著者はビリャナさんですが、私のブルガリアとブルガリアの唄への愛を注ぎ込むようにして完成した画集です。

2022年2月12日
ゆめある舎 谷川 恵

ブルガリアの唄について

ブルガリアは東ヨーロッパに位置します。南にはギリシャ、トルコ、北はルーマニア、西には北マケドニア、セルビア、黒海をはさんで東には勇壮で複雑なポリフォニーの男声合唱で知られるジョージア共和国があります。

日本では、ヨーグルトが最も有名でしょう。ほかにも、ブルガリアンローズの栽培で得られるバラ精油、ブルガリアワイン、紀元前3~4世紀の遺跡を含む7つもの世界文化遺産などでも知られています。また、ブルガリアの各地に東ローマ帝国の遺跡がみられることから、古代より人々が豊かに暮らしていた地であることがうかがえます。

1327年から約500年もの間、ブルガリアは、オスマントルコ帝国の支配下にありました。異国の支配に耐えながらも自国の伝統がはぐくまれていました。村々に伝わる民謡には、生活や恋愛に加えて、支配に抵抗した民衆たちや義賊たちが歌われています。

魔除けの意味も込めて美しく刺繍された地方ごとに異なる色とりどりの民族衣装の数々、お祭りや、農作業の合間に踊られる踊りとともに、民謡は祖母から母へ、そして、子へ孫へと伝承されてきました。その魅力は、軽快な奇数拍子(5拍子、7拍子、9拍子、11拍子など)で踊りとともに歌われるもの、Bavna pesen(ゆっくりの歌)といって日本の追分節に通じるような複雑で美しいこぶしがあるもの、そして地方ごとに特色のあるメロディーなど様々です。多くはソロやユニゾンで歌われますが、西のショップ地方、マケドニアやギリシャに近いピリン地方などには、一般には不協和音とされる短二度や長二度の和音を含む合唱スタイルの民謡が伝わっています。

このブルガリア独特の民謡に新しい風を吹き込んだのが、ブルガリア人音楽家のフィリップ・クテフです。彼は、1951年にブルガリア各地から歌のうまい女性を選抜して国立民族合唱団を創設し、民謡を合唱曲に編曲した作品を発表しました。これが、ブルガリア民謡が世界中に知られるようになったきっかけと言えると思います。ブルガリア各地で歌われていた民謡の歌い方がほぼそのまま生かされ、美しいこぶしと、不協和音とされる強烈な力強い響きがふんだんに含まれた歌は、世界に衝撃を与えました。一声聴いて魅了された人も多いでしょう。

1988年に日本で複数のTVCMに起用されたきっかけで、日本でもブルガリアンヴォイスブームが起こり、国立フィリップ・クテフ合唱団の初来日公演が開催されました。また、翌1990年、アメリカのグラミー賞、Best Traditional Folk Recording賞に、アルバム「The Mistēre Des Voix Bulgares VolumeⅡ」が選ばれました。すでに世界中に知られていたブルガリアンヴォイスでしたが、日本でも民族音楽の1ジャンルとして確立され、多くの人の心をとらえています。

井尻真樹子(いじりまきこ)

井尻真樹子(いじりまきこ)

高校卒業後の春に偶然ブルガリアの女声合唱を聴いて、その虜になる。その後日本でブルガリア民謡を歌う団体に所属しつつ、2006年ブルガリア旅行にて初めてブルガリア人に民謡を習い、翌年から毎年プロヴディフでの夏のフォークセミナーに参加。その後、仲間とブルガリアのフェスティバルやTVに出演も果たした。2017年春にブルガリア民謡グループ、プローレットを結成。ライブやワークショップを通じて、ブルガリアの魅力を日本に伝える活動を続けている。

購入方法

『バラの国の唄がきこえる』は限定1,000部の発行です。

一般書店での販売は控えて、通信販売が中心となります。
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