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Mの山を登る Climbing Mt. M その1

2016.01.27

~麓で停滞、そして頂上を仰ぎながら1合目へ~

 

『くだもののにおいのする日』が完成してホッとしているところに、次の本の企画が風のようにひらりと舞い込んできました。20年以上前に、望月通陽さんが制作した「紙版画+文章」の作品が、雑誌「銀花」に掲載されたのみで書籍としてまとめられていない、それをゆめある舎で、ということでした。望月克都葉さんからのご提案で、大変光栄なものでした。

タイトルは……『Mの辞典』……なんて魅力的なタイトル!

6月には静岡の望月通陽さんのお宅を訪ね、紙版画の実物を拝見。「銀花」には載っていない作品も多くあり、1冊分に充分な分量でした。これはもしかしたら年内に発行可能かもしれない、クリスマス時期に発売出来ればプレゼントにぴったり、とひたすら浮かれておりました。

ところが、そのように都合よく物事が進むわけもありません。作品を生み出した作家にとっては、古い作品を今改めて発行する、ということは軽い考えで受け入れられることではありません。今現在の作品とは異なる若いころの作品と、もう一度向き合い、手を加えるのか、そのまま送り出すのか。常に新しい作品作りに忙しくされている望月通陽さんに、はっきりとした方針をお伝えするだけの、深い考えもなければ度胸もない私は、どうしたらよいのか分からないまま、半年近くを過ごしてしまいました。

11月、美篶堂の上島明子さんをお誘いして、大分の「望月通陽ミュージアム」に行きました。夜は、望月通陽さんの作品とたっぷり出会える宿「柳屋」に泊まりました。2日間、望月通陽さんの作品とその雰囲気を身体中で感じて過ごしました。そして、何が悪かったのかがわかりました。

そもそも私に、作品に対する敬意が足りなかった、ということです。素晴らしい作品が目の前に現れて、わぁよかった素敵、と浮かれているばかりでした。もし新作を作って頂くとしたら、真剣に頭を下げてお願いしているはずです。昔の作品だということに甘えていて、ちゃんとお願いすらしていなかったことに気が付きました。

12月、箱根で展示の搬入をしている、望月通陽さんを訪ねました。「どうか『Mの辞典』を出版させてください」と言うと、ちょっと照れたようなご様子で「お任せします」と答えてくださいました。

嬉しい!とても嬉しい!ようやく『Mの辞典』発行に向けて、第1歩を踏み出すことができます。

作品のコピーと、ワードで打ち直した文章を、一気に切り貼り。雰囲気を伝えるためのたたき台です。ひと晩で作って、装幀担当の望月克都葉さんに郵送。ご覧になった望月克都葉さんから、どのような装幀プランをいただけるのか、期待が高まります。本作りはまるで山登り。1歩ずつをしっかりと踏みしめて登って行くと、いろいろな景色が見えてきます。美しいMの山の頂上を目指して、ようやく1合目まで登ることができました。麓で停滞して、ぐるぐる悩んでいた日々が嘘みたいに、幸せです。次回は、Mの山を一緒に登るスタッフをご紹介いたします。

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