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Mの山を登る Climbing Mt. M その4

2016.09.01

~9合目でさわやかな風に吹かれて~

 

『Mの辞典』7合目の出発は、ぐるり一周を山に囲まれた、伊那の美篶堂工場から始まりました。ゆったりとした自然のなかの工場で、約10人のひとたちが、それぞれの持ち場で黙々と製本作業をしています。慣れた動きは無駄が無く、美しいです。私が工場を訪ねたときには、すでに背には寒冷紗(本の背に補強のために貼る目の粗い布)が貼ってあり、表紙の紙も厚紙に貼って四方をくるんでありました。みなで8合目まで登って、私を待っていてくれたんですね。親方の上島松男さん(美篶堂創業者・現会長)が、自ら製本の作業を説明してくださいました。製本業界の宝ともいえる親方ですが、大変気さくににこにことされていて、製本と工場と、そこで働く人たちへの、愛情を感じました

最初に目に付いた作業は、背表紙です。箔押しのチェックをして、中央に細い厚紙を貼って、コの字型に縦に細く正確に折っていく。丁寧なのに素早くて、見とれてしまいます。下記の写真が折りあがった背表紙です。この背表紙を、次に本文に貼り付けていきます。

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3時になると、おやつの時間です。親方も混じって、縦に並べたテーブルを全員で囲み、とっても和やか。集中力と根気、そしてチームワークが必要な作業ですから、きっとこの時間がとても大切なんだろうな、と思っていると、終了時間が来たようで、みなさんさーっと持ち場に戻りました。

いよいよ本文に表紙を貼ります。4人で向かい合っての作業でした。下記の写真で、左前が表紙にのりを塗る人、向かいが受け取って本文に貼り付ける人。奥のふたりは同様の作業で裏表紙です。そして2冊ずつを交互に重ねてプレスして、のりの湿気が本文に移らないように、扇形に開いて立てて並べる・・・作業は淡々と着々と進みます。そして表紙を貼り終わった『Mの辞典』がどんどん並んでいく様子は、大感激です!みなさんが真剣に作業しているので、私も静かに見守っていると、この本を作ってきたさまざまな過程が思い起こされてきて、熱い気持ちになりました。その後、もう一度充分にプレスして帯を巻けば完成です。

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「Mの山」は、7号目以降は迷いの無い1本道でした。1歩ずつ、同じペースで、しっかり踏みしめて、あわてずに登る。お天気もよく風もさわやかで、頂上が良く見えます。ようやくここまでたどり着きました。このブログを書き始めたときは、『Mの辞典』が完成したら頂上だ!と思っていました。今の気持ちは違います。私はまだ9合目。これから『Mの辞典』を一人ひとりの読者に届けてゆくのです。わくわくしながら表紙を開けて、何度も繰り返し眺めてもらいたい。丁寧に作り上げた、手触りを感じてもらいたい。願いを込めて、楽しみながらゆっくり登ってまいります。

 

【スタッフ紹介】その3 製本 上島明子さん Misuzudo

ゆめある舎の本づくりは、美篶堂の美しい手製本なしでは成立しません。1冊目の『せんはうたう』の制作時、美篶堂の上島明子さんが最初の打ち合わせから同席してくれたことで、出版経験の無かった私が無事に本を発行することができました。今回も、まず望月氏にお願いするところから一緒に来ていただき、用紙の提案、背表紙の布探し、最終的な進行の管理まで、本当に頼りになる明子さんでした。また、上島松男さん(親方)を理事長とする「本づくり協会」の理事として、明子さんも私もさまざまな活動をしています。

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美篶堂のスタッフ&親方と一緒に。うしろには手良山が。

Mの帯