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材料の用意(後半)、見返しセット。
断裁作業は続き、表紙材料・本文背固め材料と用意し、下準備を進める。印刷物は表紙だけでなく見えない部分(背紙)にも使えそうで、残った端材を見るとト音記号の連なりもまた何かに使えそうだ。
前回断裁した見返しは二つ折りをし、本文にセットしていく。見返し見返し見返し…本文本文本文…と、数回セットしては交互に置いて積み上げる。

本文の断裁。全紙から100枚ずつ数えては合紙をはさみ、まずは大断ちを行う。本文紙はスピカレイドボンド。万年筆と相性がいい紙である。僕はボールペンの書き心地も気に入っている。ノート作りはここから始まる。

#ゆめある舎 #せんはうたう #望月通陽
#こいずみしょう #手製本 #製本 #ノート #bookbinding #papercraft#handmade
#本をつくる #僕はつくると生き生きする

~9合目でさわやかな風に吹かれて~

 

『Mの辞典』7合目の出発は、ぐるり一周を山に囲まれた、伊那の美篶堂工場から始まりました。ゆったりとした自然のなかの工場で、約10人のひとたちが、それぞれの持ち場で黙々と製本作業をしています。慣れた動きは無駄が無く、美しいです。私が工場を訪ねたときには、すでに背には寒冷紗(本の背に補強のために貼る目の粗い布)が貼ってあり、表紙の紙も厚紙に貼って四方をくるんでありました。みなで8合目まで登って、私を待っていてくれたんですね。親方の上島松男さん(美篶堂創業者・現会長)が、自ら製本の作業を説明してくださいました。製本業界の宝ともいえる親方ですが、大変気さくににこにことされていて、製本と工場と、そこで働く人たちへの、愛情を感じました

最初に目に付いた作業は、背表紙です。箔押しのチェックをして、中央に細い厚紙を貼って、コの字型に縦に細く正確に折っていく。丁寧なのに素早くて、見とれてしまいます。下記の写真が折りあがった背表紙です。この背表紙を、次に本文に貼り付けていきます。

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3時になると、おやつの時間です。親方も混じって、縦に並べたテーブルを全員で囲み、とっても和やか。集中力と根気、そしてチームワークが必要な作業ですから、きっとこの時間がとても大切なんだろうな、と思っていると、終了時間が来たようで、みなさんさーっと持ち場に戻りました。

いよいよ本文に表紙を貼ります。4人で向かい合っての作業でした。下記の写真で、左前が表紙にのりを塗る人、向かいが受け取って本文に貼り付ける人。奥のふたりは同様の作業で裏表紙です。そして2冊ずつを交互に重ねてプレスして、のりの湿気が本文に移らないように、扇形に開いて立てて並べる・・・作業は淡々と着々と進みます。そして表紙を貼り終わった『Mの辞典』がどんどん並んでいく様子は、大感激です!みなさんが真剣に作業しているので、私も静かに見守っていると、この本を作ってきたさまざまな過程が思い起こされてきて、熱い気持ちになりました。その後、もう一度充分にプレスして帯を巻けば完成です。

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「Mの山」は、7号目以降は迷いの無い1本道でした。1歩ずつ、同じペースで、しっかり踏みしめて、あわてずに登る。お天気もよく風もさわやかで、頂上が良く見えます。ようやくここまでたどり着きました。このブログを書き始めたときは、『Mの辞典』が完成したら頂上だ!と思っていました。今の気持ちは違います。私はまだ9合目。これから『Mの辞典』を一人ひとりの読者に届けてゆくのです。わくわくしながら表紙を開けて、何度も繰り返し眺めてもらいたい。丁寧に作り上げた、手触りを感じてもらいたい。願いを込めて、楽しみながらゆっくり登ってまいります。

 

【スタッフ紹介】その3 製本 上島明子さん Misuzudo

ゆめある舎の本づくりは、美篶堂の美しい手製本なしでは成立しません。1冊目の『せんはうたう』の制作時、美篶堂の上島明子さんが最初の打ち合わせから同席してくれたことで、出版経験の無かった私が無事に本を発行することができました。今回も、まず望月氏にお願いするところから一緒に来ていただき、用紙の提案、背表紙の布探し、最終的な進行の管理まで、本当に頼りになる明子さんでした。また、上島松男さん(親方)を理事長とする「本づくり協会」の理事として、明子さんも私もさまざまな活動をしています。

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美篶堂のスタッフ&親方と一緒に。うしろには手良山が。

Mの帯

 

~慎重に道を見極め、時には数歩戻って、ようやく7合目あたりじゃないか~

 

『Mの辞典』の全体のデザイン、製本プランが決まり、ここから先はひとつひとつが具体的な作業になります。三島印刷所・遠藤孝さんの最初の作業は、作品のスキャンニングとテキストのレイアウトです。紙版画の質感をどのように再現するのか。表紙は4色カラーにするのか、特色2色印刷にするのか。実際に刷って貰って、実物を見て判断する以外にありません。テキストのレイアウトについては、ゲラを見ると改めて色々と思うところがありました。まず、ルビの振り方の修正を頼みました。他にも「ここはちょっと狭い感じがする」等の部分的な意見を言いましたが、実際に直していただくとまた別の違和感が出てくることもありました。装幀担当の望月克都葉さんが、ページ全体、本全体を見渡して、最終判断をしてくれる安心感から、私は自分の細かい意見を躊躇せずに述べることができました。時間がかかりましたが、納得がいくまで関わることで、本に対する愛着が増しました。

『Mの辞典』の表紙・裏表紙は、「つつ描染」の作品で、この本のために望月通陽さんが新たに染め上げてくださったものです。引き込まれるような深い色合いの作品ですが、軽やかなユーモアーもあります。でも、ひとつ問題があって、本文が「紙版画+文章」の作品集である、ということが表紙からは分からないのです。販売時は本をOPP袋に封入するので、帯で内容を分かって貰えるようにしなければなりません。紙版画の画像、アルファベット、手書き文字、縦書き、横書き、ロゴと、沢山の情報を、克都葉さんが7センチ幅の帯に上手く配置してくれました。細かい調整を何度もして、遠藤さんにお手数かけて、外してしまうのがもったいないような帯になりました。

遠藤さんスケッチトリミング

6月中旬、本文がアラベールオータムリーブという用紙に刷られて手元に届きました。予想以上の美しさです。紙の持つ力を感じました。望月通陽さんもこれを見て「よしよし」とおっしゃったとか。

同時期に、美篶堂・上島明子さんより、束見本が届き、ついに『Mの辞典』が、本の姿で現れました。今回の製本は「ドイツ装」です。感激している余裕も無く、束見本をたたき台に、より美しい本にするために意見が出てきます。もっと背表紙を柔らかなフォルムにできないか、実際に帯を巻いてみたら見せたい部分が少し隠れてしまう、裏表紙の原画縮小率が当初のプランと違うのでは?などなど。その後、新たな束見本を3パターン作って貰い、製本スタイルは決定。それなのに、吟味して選んだ背表紙の布が廃盤になっていて、変更。表紙を、光沢ニスにするかマットニスにするかの決定を克都葉さんに一任。せわしない状況でしたが、7月中旬に、長野の渋谷文泉閣さんに、糸かがり(本の背を糸でとじる)の立会いに伺いました。すでに折り加工と丁合が済んでいて、見返しも本文に貼り付けてあり、糸かがり機でかがる、一番興味深いところを見せていただきました。実際にかがるのは機械ですが、用紙をそろえたり操作したりの人の動きは無駄が無く美しく、それが印象に残りました。善光寺にお参りして、本の完成を祈ってきました。

8月に入り、背表紙の箔押し作業が始まりました。「荒めの布地」に「細かい英文字」を「くっきりと」押す、というのは、難易度の高い注文です。それにどこまでこだわるか。本全体からみた「背表紙と文字」の存在感の確認が必要です。程なく、美篶堂さんから「完成見本」が届き、背表紙の箔押しこのまま進行OKとなりました。克都葉さんからも、「『Mの辞典』は理想どおりの仕上がり」と嬉しいメールが届きました。

4合目以降の「Mの山」は、整備された道ではありませんでした。頂上を見失うことはありませんでしたが、行きつ戻りつがあり、分かれ道もありました。木立に埋もれて、今自分は何合目にいるのかよくわからない状況にもなりました。「印刷」「糸かがり」「箔押し」をクリアしたので、3合分は登れているんじゃないかしら?7合目までは来ているはずです。頂上がぐっと近づいてきたのが分かります。

 

【スタッフ紹介】その2 印刷 遠藤孝さん Mishima Printing office

望月通陽さんのさまざまな印刷物を手がけていらっしゃるのが、三島印刷所の遠藤孝さんです。私のデスク前にかかっている「菜の花カレンダー2016」、望月氏と克都葉さんの私設書局「THE CALYPSO PRESS」の書籍もそうです。『Mの辞典』は、少人数のチームで気持ちを合わせて念入りに作りたいと考えていたので、遠藤さんにお願いすることにしました。装丁・製本・版元の「三人の魔女」に囲まれて、いつもにこやかな遠藤さんは、内心大変な思いをされていたのかも知れません。私は2回三島印刷所に伺い、工場を隅々まで案内していただきました。商売繁盛の「三嶋大社」にも連れて行っていただき、『Mの辞典』の重版出来を祈りました。

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 遠藤さん 克都葉さん 恵 明子さん @三島印刷所

以前、「美篶堂長野伊那工場見学の様子」というブログを書きました。『せんはうたう』初版の、手製本の様子です。このたび『せんはうたう』の5刷を発行することになり、この機会に是非印刷も見学したいと考えて、美篶堂の上島明子さんとふたりで、富山まで出かけてきました。

 

山田写真製版所には、伝説の「プリンティングディレクター」がいらっしゃる、ということは、『せんはうたう』の印刷会社を決めたときに、明子さんから聞いていました。初めての本作りをする私と何度も打ち合わせして、常に支えてくださったのは、東京本部の板倉利樹さんですが、富山には「せんはうたうブルー」を作り出した、「プリンティングディレクター」熊倉桂三さんがいらっしゃる。どんな方なんだろう、とドキドキしていたら、明子さんが「熊倉さんは加山雄三に似てると巷で噂なんです。私もそう思います」と… ますますドキドキしてしまいます。

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本社のロビーで。うしろのポスターが素晴らしい。

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 見学日に合わせて、あらかじめ本文用紙の裏の印刷を済ませてくださっていました。

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特別に調肉(調整)された「せんはうたうブルー」です。

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 巨大な印刷機から試し刷りの用紙が出てきます。

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大胆にはさみでカット。

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見本と比べて、色を合わせます。

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 作業はてきぱきと進み、どうやらOKがでたらしい。

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こちらは別丁扉。目視だけでなく色の数値を図る機械もあります。

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表紙カバーは印刷直後はしっとりと濃い色です。ドライヤーで乾かしてみる!

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 完全に乾いているものと、少し乾かしたもの。

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 完全に乾くのを待っているわけにはいきませんので、乾いたときの色を見越して

OKサインを出します。さすがプロの仕事ですね。

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刷りたての『せんはうたう』用紙を、明子さんと1組ずついただきました。

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初めて「印刷」を間近にみて、大きな機械にも圧倒されましたが、何人ものスタッフが動き回り、私には分からない専門用語で手短に指示を出す、「職人集団」といった雰囲気にも圧倒されました。

数年前に、『世界一美しい本を作る男〜シュタイデルとの旅〜』という映画を観ましたが、熊倉さんはまさに日本のシュタイデルと感じました。見学させていただいて、本当によかったです。

本社の屋上から眺めた立山連峰も、印象的でした。ありがとうございました。